4年前の Linux CVE-2022-0995 が KEV に入った - 自分のカーネルが該当するかを確かめる
CISA の KEV(Known Exploited Vulnerabilities)カタログに、2026年8月26日付で CVE-2022-0995 が追加された。Linux カーネルの watch_queue イベント通知サブシステムにある境界外書き込み(out-of-bounds write)で、NVD での公開は 2022年3月25日、アップストリームの修正コミットも同時期に入っている。是正期限は 2026年9月9日 である。
つまり、4年以上前に直っている欠陥が、いま悪用されているという話だ。この記事では、なぜそういうことが起きるのかと、自分の環境が該当するかを確かめる手順を扱う。攻撃手順は扱わない。
何が起きる欠陥なのか
NVD の記述はこうなっている。
An out-of-bounds (OOB) memory write flaw was found in the Linux kernel’s watch_queue event notification subsystem. This flaw can overwrite parts of the kernel state, potentially allowing a local user to gain privileged access or cause a denial of service on the system.
カーネルの状態の一部を上書きできるので、ローカルユーザーが特権を取るか、システムをサービス拒否に陥らせうる、という内容だ。報告者は Jann Horn。
CVSS は NVD の主評価で 3.1 の 7.8(High)、ベクタは次のとおり。
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読み方を分解しておく。
- AV:L(Local) — ネットワーク越しには成立しない。そのマシン上で何かを実行できることが前提。
- PR:L(Low) — 必要な権限は「一般ユーザー」。root は要らない。
- UI:N — 被害者の操作は不要。
- C:H / I:H / A:H — 機密性・完全性・可用性がすべて High。典型的なローカル権限昇格の形。
watch_queue は、カーネル内のイベント(キーリングの変更など)をユーザー空間へ通知するための仕組みで、比較的新しい機能だ。パイプをイベントの受け口として使う設計になっている。
なぜ4年前の欠陥が今なのか
3つの要因が重なっていると考えられる。
1つ目は、この種の欠陥が「単体では侵入経路にならない」ことだ。 AV:L・PR:L という条件は、成立させるには既にそのマシン上で一般ユーザーの権限を持っている必要があることを意味する。つまりローカル権限昇格は攻撃の連鎖の中間部品であり、初期侵入の統計には現れにくい。Web アプリの RCE で www-data を取り、そこから root へ上がるための道具として使われる。最初の穴ばかりが注目され、2段目は長く生き残る。
2つ目は、カーネル更新に再起動が要ることだ。 アプリケーションのパッチと違い、カーネルは入れ替えただけでは有効にならない。「再起動の調整がつかない」という理由で、パッケージだけ新しくて動いているカーネルは古い、という状態が普通に発生する。次の節の確認手順で、ここを見分ける。
3つ目は、機能の有無がビルド構成に依存することだ。 watch_queue はすべてのカーネルで有効になっているわけではない。有効なディストリと無効なディストリがあり、「Linux だから全部危ない」わけでも「新しいから安全」でもない。だから一律の判断ができず、環境ごとに確認する必要が出る。
自分の環境が該当するか
Ubuntu Security の CVE ページに、リリースごとの判定が出ている(2026年8月31日時点で確認)。
修正済み(fixed):
- 22.04 LTS jammy —
linux5.15.0-138.148 /linux-aws5.15.0-1082.89 /linux-azure5.15.0-1087.96 - 20.04 LTS focal —
linux-aws-5.155.15.0-1082.8920.04.1 /20.04.1linux-hwe-5.155.15.0-138.148
該当せず(not affected):
- 26.04 LTS resolute / 25.10 questing / 25.04 plucky / 24.10 oracular / 24.04 LTS noble / 23.10 mantic / 23.04 lunar、および 18.04 LTS bionic / 16.04 LTS xenial / 14.04 LTS trusty の多くのパッケージ
この分布から読み取れることは1つで、問題は 5.15 系カーネルを使い続けている環境に集中しているということだ。24.04 LTS 以降は該当せず、古い LTS も多くが該当しない。挟まれた 5.15 系だけが残っている。
確認は3手で済む。
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1 と 2 がずれていたら、それが「パッケージは当てたが有効になっていない」状態である。 KEV の期限を見るときに効くのは 2 ではなく 1 のほうだ。
Ubuntu なら、uname -r が次を満たしていれば修正版になる。
- 汎用カーネル:
5.15.0-138以降 - AWS 向け(
linux-aws):5.15.0-1082以降 - Azure 向け(
linux-azure):5.15.0-1087以降
Red Hat 系は、Red Hat Bugzilla の 2063786 と、それに紐づく RHSA を確認する。アップストリームの修正コミットは 93ce93587d36 である。
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--changelog に CVE 番号が出てくれば、そのパッケージには修正が入っている。ただしこれも「入っているパッケージ」の話なので、uname -r との突き合わせは同じように必要だ。
クラウド別に何が要るか
いずれもディストリのカーネル更新であって、クラウド事業者側の修正ではない。
| 環境 | 対応 | 注意 |
|---|---|---|
| AWS EC2 | linux-aws を 5.15.0-1082.89 以降へ更新して再起動 |
Auto Scaling を使っているなら、更新済み AMI へ入れ替えてローリング置換するほうが停止時間が短い |
| GCP Compute Engine | ディストリのカーネル更新後に再起動。GKE はノードプールのアップグレード | Container-Optimized OS は 5.15 系より新しい構成が多く該当しない可能性が高いが、実際のカーネル版で確認する |
| Azure VM | linux-azure を 5.15.0-1087.96 以降へ更新して再起動。AKS はノードイメージのアップグレード |
AKS はノードイメージ更新で Pod の退避を伴う |
マネージドサービス(Lambda / Fargate / Cloud Run / RDS など)は、ホストカーネルを利用者が管理しないため、この CVE の直接の対象ではない。 対象になるのは、自分でカーネルを持っている環境だけだ。
更新までのあいだに効くこと
根本対策はカーネル更新で、それ以外は補助でしかない。そのうえで、成立条件から逆算して効くことが2つある。
1つは、前段を断つことだ。 AV:L・PR:L なので、成立には既にそのマシン上で一般ユーザー権限を持っていることが要る。逆に言えば、次の「一般権限を取られる経路」を潰すことは、この CVE に対しても直接効く。
- コンテナからホストへ抜け出す経路(特権コンテナ、ホストパスのマウント、
docker.sockの露出) - 共有ホスト上の一般ユーザーアカウント(不要なシェルアカウントの棚卸し)
- Web アプリケーションからのコマンド実行(アップロードディレクトリの実行権限、テンプレートインジェクション)
もう1つは、自ビルドのカーネルを使っている場合の構成確認だ。 watch_queue を有効にしていないカーネルであれば、そもそも到達できない。
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ディストリ提供のカーネルでは構成を選べないので、大半の環境ではこれは判断材料にしかならない。
この件から持ち帰るもの
実務的な教訓は、KEV は「新しい CVE のリスト」ではないということだ。載る条件は「悪用が現に確認されたこと」であって、公開時期ではない。今回のように4年前のものが載ることもあるし、2015年のもの(同じ 8月26日に CVE-2015-3246 と CVE-2015-5287 が追加されている)が載ることもある。
したがって、脆弱性の棚卸しを「直近N日に公開された CVE」で回している運用は、この種の追加を取りこぼす。KEV カタログの差分そのものを監視対象にするほうが確実だ。カタログは JSON で公開されている。
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日次で取得して前日との差分を取れば、「4年前の CVE が今日追加された」という形の変化を、公開日ベースの監視では見えない位置で捉えられる。
なお当サイトの姉妹サイト CVE Watch では、この CVE を含む High / Critical および KEV 収載の脆弱性について、クラウド・OS ごとの対応を日本語で整理している。
出典(いずれも2026年8月31日時点で確認)
- NVD:
https://nvd.nist.gov/vuln/detail/CVE-2022-0995(CVSS 3.1 = 7.8 / vulnStatus = Analyzed / 公開 2022-03-25) - CISA KEV カタログ(収載 2026-08-26 / 是正期限 2026-09-09)
- Ubuntu Security:
https://ubuntu.com/security/CVE-2022-0995(リリースごとの修正状況) - アップストリーム修正コミット
93ce93587d36(torvalds/linux) - Red Hat Bugzilla 2063786
バージョン番号と判定は更新される場合があるため、適用前に各ベンダの一次情報で最新をご確認ください。